テストが返ってきて、答案を見る。
「この問題、分かってたはずなのに」。
符号の書き間違い、
問題文の読み違い、
写し間違い。
口から出そうになるのは、
「なんでこんなミスをするの」
という一言です。
言ってしまった後で、
子どもの表情が曇るのを見て後悔する。
「見直しなさいって、あれだけ言ったのに」
と思う気持ちも、
「また責めてしまった」
という気持ちも、どちらも本当の親心です。
うっかりミスは、性格や努力不足ではなく、
人間の脳の"初期設定"で起きる現象です。
そして、叱っても減りません。
減らせるのは、提出する直前に
「確かめるスイッチ」
が入る仕組みを、家庭で一緒に作ったときです。
親子で解く引っかけ問題の効果
次の問題を、あまり考えすぎずに答えてみてください。
えんぴつと消しゴムを合わせて、110円です。
えんぴつは、消しゴムより100円高いです。
消しゴムはいくらでしょう?
ぱっと頭に浮かんだのは「10円」ではないでしょうか。
正解は5円です。
消しゴムが10円だと、えんぴつは110円になり、
合わせて120円になってしまいます。
消しゴム5円・えんぴつ105円なら、合計110円で、
差もちょうど100円になります。
(この問題は、アメリカの心理学者フレデリックが使った「バットとボール」の問題を、日本のお買い物に置き換えたものです。)
この問題は、頭に浮かんだ答えを、
いったん立ち止まって確かめられるかを調べる3問セットのテストの1問です。
アメリカの大学生など3,428人が受けました。
結果は次のとおりです。
- 3問ぜんぶ正解した人:全体で17%
- MIT:48%、プリンストン大学:26%、ハーバード大学:20%
- 3問ぜんぶ不正解だった人:全体で33%
世界的な名門大学の学生でも、
全問正解は半分以下でした。
つまり、
「分かっているはずなのに間違える」のは、
頭が悪いからではなく、
人間なら誰でもやってしまうクセ
なのです。
子どもがひっかかりやすい理由とその対策
では、子どもはどうでしょうか。
研究者のシュトゥルマンさんたちは、
5〜12歳の子ども96名に、子ども向けの
「引っかけ問題」を
出して調べました。
どれも、ぱっと考えると間違えやすいように作られた問題です。
たとえば、石と羽根の重さを比べる問題や、
羊の数を答える問題などです。
「ぱっと浮かんだ間違い」
を選んでしまった人の割合は、次のとおりです。
| 問題の種類 | 子ども | 大人 |
|---|---|---|
| 石と羽根の重さを比べる問題 | 92% | 12% |
| 羊の数を答える問題 | 76% | 8% |
| 競走で順位を答える問題 | 67% | 27% |
| りんごの数を答える問題 | 46% | 4% |
石と羽根の問題では、正解できた子はわずか7%でした。
とんどの子が、ぱっと浮かんだ答えに引っぱられたのです。
ただし、この研究には注意点があります。
- 対象は5〜12歳で、中学生の数字ではありません。
- テストの精度はあまり高くないため、「うちの子はどうか」を測るものではありません[2]。
ここから分かるのは、
「子どもは大人より、ぱっと浮かんだ答えにひっかかりやすい傾向がある」
という、全体の大まかな姿です。
見直しの新しい視点:自分の答えを疑う
もう一つ、大切な研究があります。
ヤングさんとシュトゥルマンさん(2020年)は、
152名の子どもを調べました。
引っかけ問題が得意な子ほど、
数学や理科の「考え方の土台」(たとえば、イコールの本当の意味)をよく理解している、
という関係が見つかりました。
年齢や、もともとの頭の使い方の力の差を考えに入れても、この関係は残っていました。
つまり、
「ぱっと浮かんだ答えを、いったん疑ってみる力」
は、計算ミスを減らすだけでなく、
数学の本当の理解ともつながっている
かもしれません。
ここで注意したいのは、これは
「関係がある」ということが分かっただけで、
「見直しの練習をすれば数学が伸びる」
と証明されたわけではない点です。
それでも、見直しを「ミスを探す作業」ではなく、
「自分の答えを、いったん疑ってみる練習」
と考え直してみると、親子の声かけが変わってきます。
叱るだけでは減らない理由とその背景
ぱっと浮かぶ答えは、自動的に、素早く出てきます。
これは毎日の生活を楽に送るための脳の働きで、悪いものではありません。
一方、「本当にそうかな?」と確かめるには、
意識して、ゆっくり考える必要があります。
ぱっと浮かんだ答えが先に出て、
確かめるスイッチが入らないまま提出してしまう。
これが、うっかりミスのよくある姿です。
(心理学では、前者を「システム1」、後者を「システム2」と呼ぶことがあります。
ただし、頭の中に2つの別々の部分があるわけではなく、考え方の2つのモードを説明するための"たとえ"です。)
親が「なんで間違えたの」と叱っても、
ぱっと浮かぶ速さは変わりません。
むしろ、責められた子どもは「また怒られた」という気持ちでいっぱいになり、
答案に向き合う余裕がなくなってしまいます。
叱ることは、確かめるスイッチを入れる助けにはなりにくい
のです。
40年の指導経験から見えてきたのは、
うっかりを繰り返す子に足りないのは集中力ではなく、
「提出する直前に立ち止まる仕組み」
だということです。
家庭で実践できる!確かめるスイッチの作り方
仕組みは、気合いや根性ではなく、
行動のきっかけにします。
今日から試せる3つをご紹介します。
1. 提出前に30秒待つ:確かめる時間を作る
答えを書き終えたら、すぐに「できた!」と見せるのではなく、
30秒だけ手を止めます。
タイマーを使ってもかまいません。
この30秒は、ぱっと浮かんだ答えに、
「確かめる頭」が追いつくための時間です。
2. 疑う:迷ったポイントを一緒に探る
親の声かけを、
「なんで間違えたの」から「どこで迷った?」
に変えます。
「なんで」は責める質問に聞こえやすく、
「どこで」は一緒に場所を探す質問になります。
- NG:「なんでこんなミスをしたの?」
- 言い換え:「この問題、どこで迷った?」
- 言い換え:「この答え、もう一回だけ、本当にそうか一緒に見てみようか」
3. 声に出す・書く:手を動かして確かめる
「もう一回見直して」
は、何をすればいいのか分かりにくい指示です。
代わりに、次のような具体的な動作にします。
- 問題文を声に出して読み直す
- 求めるものに線を引く
- 出した答えを、元の式に当てはめて確かめる
- 余白に「単位」「符号」「条件」と書いて確認する
確かめることを、頭の中だけで済ませず、
目や手を使う動作に変えるのがポイントです。
週に一度の引っかけクイズで楽しく確かめる練習
もう一つ、楽しみながらできる方法があります。
冒頭のえんぴつと消しゴムのように、
ぱっと考えると間違えやすい問題を、親子でクイズとして出し合う
ことです。
- 「1キロの鉄と1キロの綿、どっちが重い?」
- 「かけっこで2位の人を追いぬいたら、何位?」
大事なのは、点数をつけたり、
ひっかかった子を笑ったりしないことです。
ひっかかったときに
「あ、ぱっと浮かんだ答えに引っぱられたね」と言い合えると、
直感と、確かめることの違いを、安心できる場で体験できます。
このクイズは遊びであり、診断やテストではありません。
まとめ:叱るよりも仕組みを一緒に考える
- うっかりミスは、名門大学の学生でも全問正解は17%という、人間の標準的なクセ
- 子どもは大人より、ぱっと浮かんだ答えにひっかかりやすい傾向がある(石と羽根の問題で92%)
- 見直しは、間違い探しではなく「疑う練習」であり、数学の理解ともつながっている可能性がある
- 叱るより、「待つ・疑う・書く」を仕組みにする
「またうっかりミス?」
という言葉が口から出そうになったら、
一呼吸おいて、こう言い換えてみてください。
「この問題、どこで迷った?」。
責める親から、
仕組みを一緒に見る親へ。
それが、うっかりミスを減らす、最初の一歩になります。