家庭学習のお悩み解決

子どもが途中式を書かない本当の理由と指導法

「途中式、ちゃんと書きなさい」

何度言っても、答えだけがポツンとノートに並んでいる。

「頭の中でできるから」
と子どもは言う。

でも、その答えは大抵間違っている。

イライラして、つい強く言ってしまう。
でも翌日も、また同じことが繰り返される。

これは「書かない」のではなく、

「書けない」

のかもしれません。

サボっているのでも、反抗しているのでもなく、

脳の作業スペースが足りなくなっている

だけの可能性があります。

この記事では、次の3点をお伝えします。

  • なぜ「書けない」が起きるのか(脳の仕組み)
  • なぜ「書く」ことが脳を助けるのか
  • 「キレイに書きなさい」が逆効果になる理由と、家庭でできるノート指導

子どもが途中式を書けない理由とその背景

書き方が分からない子どもの具体例

塾や家庭教師の現場では、こんな指摘があります。

「途中式を書け」
と言われたら、どう書いたらいいか分からない。

だから書かないのは当然だ。

証明問題で
「説明の言葉や式を書け」
と指示されても、その書き方自体が分からない。

頭の中で考えるほうが、まだ楽だと感じている。

つまり、
「途中式を書く」という行為そのものが、

やったことのない作業

になっている可能性があるのです。

答えを先に出す生徒の特徴

現場の観察では、こんな現象も報告されています。

途中式を書くのが嫌になる生徒の多くは、

先に何らかの方法で答えを出してから、
あとで途中式を書く

という経験をしています。

つまり、
「途中式を書きながら考える」のではなく、

「全部頭の中で解いてから、結果だけを書く」

という順番になっているのです。

この解き方だと、途中で間違えても気づけません。

方向性がずれても修正できません。

結果として、ミスの多い答案ができあがります。

具体例で見る2つの解き方の違い

解き方特徴
書きながら考える1行ずつ進み、間違いにその場で気づける
全部頭で解いてから書くミスに気づけない、修正できない

「書かない」のではなく、そもそも

「書きながら考える」

というやり方を知らない子が一定数います。

「どこまで分かった?」と質問する重要性

「書きなさい」と指示する前に、
こう聞いてみてください。

「この問題、頭の中でどんな順番で考えた?」

この質問で、子どもが途中式を「書けない」のか
「書く習慣がないだけ」
なのかが見えてきます。

頭の中だけで解こうとすると、作業スペースはすぐに満杯になる

人間の脳には、同時に扱える情報の量に限界がある

ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。

人間には「作業記憶(ワーキングメモリ)」と呼ばれる、
情報を一時的に保持しながら処理する脳の機能があります。

ただし、この作業記憶には
明確な容量の限界
があります。

数式を解くには、複数の情報を同時に抱える必要がある

数学の問題を頭の中だけで解こうとすると、
次のすべてを同時に抱えることになります。

  • 今扱っている数字
  • 符号(プラスかマイナスか)
  • さっき計算した途中の結果
  • 次に何をすべきか

これだけの情報を、
紙に何も書かずに頭の中だけで持ち続けるのは、
容量オーバーになりやすい作業です。

容量を超えた瞬間、情報のどれかが消えます。

符号を間違える。
さっきの数字を忘れる。

これが、暗算で解こうとした結果起きるミスの正体です。

頭の中の「メモ帳」のイメージ

頭の中の作業記憶を、小さなメモ帳だと考えてください。

  • 1行目:今の数字を書く
  • 2行目:符号を書く
  • 3行目:次にやることを書く

このメモ帳には、書けるスペースが限られています。

3行書いたところで、4行目を書こうとすると、
1行目が消えてしまう。

これが
「頭の中だけで解く」
ときに起きていることです。

「暗算できる」を褒めすぎない

子どもが暗算で解けたときも、
「すごいね」で終わらせず、
こう一言添えてください。

「次は、ちょっと複雑な問題だから、途中式も書いてみようか」

暗算の得意さを否定する必要はありません。

ただし、

容量オーバーになりやすい場面

では、途中式に切り替える習慣をつけます。

「書く」は、サボりではなく脳を助ける技術だった

紙に書くことで、頭の中の負担を外に逃がせる

途中式を書くことには、

「正解にたどり着くため」

以上の意味があります。

書くことは、脳の負担を軽くする「認知的オフロード」

心理学では、情報を外部(紙やノート)に書き出すことで、
脳の処理負担を軽くする行動を
「認知的オフロード」
と呼びます。

この考え方では、

数学の途中式を書くことは、
認知的オフロードの代表的な例

として説明されています。

途中の計算結果を紙に書き出すことで、
頭の中の作業記憶を圧迫せずに、
考え続けることができるのです。

言い換えると、途中式を書く子は、

頭の中のメモ帳の容量を、
紙というもうひとつのメモ帳に分散させている

状態です。

書く・書かないでの負担の違い

状態頭の中の負担
途中式を書かず、全部頭の中で処理作業記憶がすぐに満杯になる
途中式を書いて、紙に情報を逃がす頭の中には「次の一歩」だけが残る

途中式を書く子が結果的にミスが少ないのは、
根性があるからではなく、

脳の負担そのものを減らしているから

です。

「書く=頑張っている証拠」と伝える

子どもに、こう伝えてみてください。

「途中式を書くのは、面倒なことをしてるんじゃなくて、頭を楽にする方法なんだよ」

「書きなさい」という指示から、
「書くと楽になるよ」
という説明に変えるだけで、受け取り方が変わります。

「キレイに書きなさい」が、逆に思考を止めることがある

丁寧さを求めすぎると、脳がもうひとつの作業を抱え込む

「途中式は書いているのに、ぐちゃぐちゃで読めない」

という悩みもよく聞きます。

そこで
「キレイに書きなさい」
と指導したくなります。

しかし、これが逆効果になるケースがあります。

見た目を整える作業も、作業記憶を使う

現場では、
「途中式を丁寧に書きすぎて、かえって解けなくなる」
というケースも報告されています。

これは、次の2つの作業を同時にやろうとしているために起きます。

  • 問題を解くための作業(本来やるべきこと)
  • 見た目をきれいに整える作業(本来は不要な負担)

ただでさえ容量が限られている作業記憶に、
「きれいに書く」
という追加の作業が乗ると、肝心の
「考える」
ための余裕がなくなります。

思考を止めるノートと、思考を深めるノート

ノートの書き方特徴
思考を止めるノート間違いを消しゴムで消し、正解だけを残す。見た目はきれいだが、どこで間違えたか分からなくなる
思考を深めるノート間違いに×をつけて残し、横に正しい式を書く。見た目は雑だが、あとで見返せる

きれいなノートが、必ずしも
「よく考えられたノート」
とは限りません。

消させず、×をつけさせる

子どもが間違えた途中式を消しゴムで消そうとしたら、こう声をかけてください。

「消さなくていいよ。×をつけて、横に直した式を書いてみて」

これだけで、ノートは「結果を見せる場所」から
「考えた跡を残す場所」
に変わります。

今日からできる、3つのノート指導

ここまでの内容を、家庭ですぐ使える形にまとめます。

① 消させない、×をつけて残させる
間違えた途中式は消さず、×をつけて、横に正しい式を書かせます。

② きれいさより、途中式の"量"を見る
字の乱れを指摘する前に、「途中式をどれだけ書けたか」を見ます。乱雑でも書けていれば、「ちゃんと書けてるね」と伝えます。

③ 「暗算できる」を褒めすぎない
暗算で解けた問題でも、「途中式を書いたらどうなる?」と一度確認させます。特に新しい単元や複雑な問題では、途中式を優先させます。

まとめ:今日、「消さなくていいよ」と伝えてみてください

途中式を書かない理由を、整理します。

  • 「書かない」のではなく、「書き方が分からず書けない」ケースがある
  • 頭の中だけで解こうとすると、作業記憶という脳のメモ帳がすぐに満杯になる
  • 途中式を書くことは、脳の負担を外に逃がす技術(認知的オフロード)である
  • 「キレイに書きなさい」は、場合によっては脳に余計な負担を追加してしまう
  • ノートは「結果を見せる場所」ではなく「考えた跡を残す場所」にする

今日の行動は、この1つです。

子どもが途中式を消そうとしたら、
「消さなくていいよ、×をつけて残して」
と伝える。

完璧に書けなくても、責める必要はありません。

その「残った跡」こそが、
次にどこでつまずいているかを教えてくれる、
いちばん価値のある情報です。

ノート指導のチェックリストを使って、
お子さんの学び方を見直したい方は、
雙葉進学教室までご相談ください。


大岩裕之(おおいわ ひろゆき) 雙葉進学教室 塾長。数学教育学修士・専修免許状取得。ロンドン・ニューヨーク・上海など6都市での指導を経て、2015年より半田市にて開校。指導歴40年・数学・理科専門。

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