定期テストでは80点取れていた。
それなのに模試や応用問題になると、
同じ単元のはずなのに手が止まる。
「え、この前できてたよね?」
そう聞くと、子どもは気まずそうに黙る。
反抗しているわけでも、サボっていたわけでもなさそうです。
これは怠けでも、ごまかしでもありません。
人間の脳がもともと持っている、
「わかったつもり」という錯覚
が起きているだけです。
そして多くの場合、
その錯覚の根っこには
「定義の軽視」
があります。
この記事では、次の3点をお伝えします。
- なぜ「できたはず」が崩れるのか
- 根っこにある「定義の軽視」とは何か
- 家庭でできる、3つの質問による見抜き方
「わかったつもり」を見抜く方法
子どもが理解度を自己評価できない理由
「うちの子、本当にわかってるのかな」
と疑うのは、失礼なことではありません。
研究の世界でも、
「自分の理解度を正確に自己評価するのは難しい」
ことがはっきりわかっています。
成績と自己評価の関係
テストの前に
「自分は何点取れそうか」
を予測させる実験があります。
結果は、こうでした。
- 成績の低い学生ほど、自分の点数を大きく過大評価する
- その差は、最大30%に達したという報告もある
- 一方、成績の高い学生は、比較的正確に自分の点数を予測できた
つまり、
「わかっていないこと」
に気づく力そのものが、
理解が浅いときほど働きにくいのです。
「わかった」の誤解を解く
子どもが「わかった」と言うとき、
次の2つのどちらかが起きています。
| わかったの中身 | 特徴 |
|---|---|
| 本当の理解 | 数字や問題文が変わっても対応できる |
| 表面的な一致 | 「見たことある問題」というだけで安心している |
この2つは、本人の中では
同じ感覚
として現れます。
だから、子ども自身にも見分けがつきません。
「様子を見る」からアクションへ
「わかってそう」
「なんとなく理解してそう」
という判断を、いったん手放してください。
次章の「定義質問」で、
外側から確認する方法に切り替えます。
見たことある問題の落とし穴
見た目に惑わされない思考法
「見たことある問題だ」
と思って安心する。
実はこの感覚こそが、
崩れる原因になっていることがあります。
脳の見た目判断を克服する
新しい問題を解くとき、本来必要なのは次の力です。
この問題は、以前解いたあの問題と、仕組みが同じだ
ところが人間は、次のように判断しがちです。
この問題は、以前解いたあの問題と、数字や言い回しが似ている
「仕組みが同じ」
で結びつけるのが理想ですが、
「見た目が似ている」
で結びつけてしまう。
この取り違えは、
認知心理学の研究で繰り返し確認されている現象です。
同じ仕組みを見抜く力を養う
たとえば、次の2つの問題です。
- 「時速40kmで2時間進んだ道のりは?」
- 「1分間に3人ずつ入場するとき、15分後の入場者数は?」
どちらも
「一定の割合で増える量」
という同じ仕組みです。
でも見た目(道のり・速さ/入場者・人数)がまったく違うため、
片方は解けても、もう片方は解けない
ということが起こります。
まったく別の問題として見えてしまっています。
逆に、こんなケースもあります。
- 「時速40kmで2時間進んだ道のりは?」
- 「時速50kmで150km進んだときにかかる時間は?」
こちらは見た目が似ているので
「見たことある」
から解けると安心してしまい、
仕組みを理解しないで、
ただ同じ計算をしようとしてしまいます。
「見たことある」を疑う理由
子どもが
「これ、見たことある」
と言ったときこそ、次の質問のタイミングです。
「じゃあ、言い方を変えても同じやり方で解ける?」
これだけで、表面的な一致なのか、
本当に仕組みを理解しているのかが見えてきます。
数学の定義を理解する重要性
手続きだけでなく意味を理解する
ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。
数学の理解には、大きく分けて2つの要素があります。
| 要素 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| やり方 | 問題をどう解くか | 「y=ax+bに代入する」 |
| 概念 | なぜそうなるか | 「xが1増えるとyが一定量変わる関係」 |
多くの子どもは、
手続きだけを覚えて、概念を素通り
しています。
定義に注目する習慣を身につける方法
中学生を対象にした学習法の研究があります。
この研究では、つまずいたときに教科書を見返す習慣と、
「人に説明できる状態が、理解した状態である」
という考え方
を身につけさせる講座が行われました。
講座の中心は、
用語の定義と具体例に注目して教科書を読み、
それを自分の言葉で説明する
という活動です。
わざわざこうした講座が必要になるということ自体が、
「定義に注目して読む」
は放っておいて自然に身につく力ではない
ことを示しています。
一次関数の定義を理解する
試しに、お子さんにこう聞いてみてください。
「一次関数って、そもそも何?」
多くの場合、返ってくるのはこうです。
「y=ax+bの式」
これは
式は覚えているが、定義は説明できていない
状態です。
本当の定義は、
「xの値が1増えるごとに、yの値が一定量ずつ変化する関係」
です。
式を暗記しているだけの子は、
xとyの役割が入れ替わったり、
グラフの形で問われたりすると、
途端に手が止まります。
単元の理解を深める質問法
新しい単元に入ったら、問題を解く前に、まずこの一言です。
「今日習った〇〇って、そもそもどういう意味?」
即答できなければ、それは
まだ手続きの段階
にいる、というサインです。
説明することで理解を深める方法
説明が理解確認の最良の方法
「わかったつもり」
を見抜く方法は、実はシンプルです。
説明させること
です。
自己説明が学習効果を高める理由
学習中に自分自身へ説明しながら進める生徒(自己説明)と、
そうでない生徒を比べた実験があります。
結果は、次の通りでした。
- 説明を促された生徒は、全員が正しい理解に到達した
- 説明を促されなかった生徒の多くは、正しい理解に到達しなかった
説明するという行為そのものが、
頭の中を整理し、抜けている部分に気づかせてくれます。
家庭で実践できる質問法
テスト直しや宿題の後、
1問だけでかまいません。
次の3つを聞いてみてください。
- 定義質問
「〇〇って、そもそも何? 自分の言葉で説明して」 - 理由質問
「なんでその解き方を選んだの?」
※ 公式の名前ではなく、選んだ理由を聞きます。 - 逆質問
「この問題、言い方を変えても同じやり方で解ける?」
詰まったところが、その子の
「わかったつもり」
の場所です。
親の役割はメモすること
ここで大事な注意点があります。
親は正誤を判定する必要はありません。
「違うよ、それは〇〇でしょ」
とすぐに訂正すると、
子どもは答えるのが怖くなり、
次からは何も話さなくなります。
親の役目は、
「どこで詰まったか」
をメモしておくことだけです。
そのメモが、次に何を復習すればいいかの地図になります。
全国的な学力データの現実
「うちの子だけ、こんな状態なのでは」
と感じたら、次の数字を思い出してください。
2026年度の全国学力調査(中学3年・数学)です。
| 観点 | 正答率 |
|---|---|
| 知識・技能 | 63.3% |
| 思考・判断・表現 | 39.6% |
| 記述式 | 39.6% |
計算や知識は7割近くできるのに、
理由を説明する問題になると、
半分以下に落ちます。
国際調査のPISA2022でも、
数学の記述式問題(理由を文章で説明する設問)で、
完全に正解できた日本の生徒は約3割でした。
「計算はできるけど、説明になると崩れる」
のは、日本の中学生に広く見られる傾向です。
お子さんだけの問題ではありません。
まとめ:理解を深めるための一歩
「テストではできたのに」
の正体を、整理します。
- 「わかったつもり」は怠けではなく、誰にでも起きる認知の錯覚
- 本人も、自分の理解度を正確には判断できない
- 見た目が似ているだけの問題を、「わかる」と錯覚しやすい
- 根っこにあるのは、多くの場合「定義の軽視」
- 「説明できる」かどうかが、理解の最も確実な証拠
- この現象は、全国的にも共通する傾向
今日の行動は、この1つです。
今習っている単元を1つ選び、「そもそも何?」と聞いてみる。
答えられなくても、責める必要はありません。
それこそが、次に何を復習すればいいかを教えてくれる、
いちばん価値のある情報です。
3つの質問テンプレートを使って、
お子さんの理解度を一緒に確認したい方は、
雙葉進学教室までご相談ください。
大岩裕之(おおいわ ひろゆき) 雙葉進学教室 塾長。数学教育学修士・専修免許状取得。ロンドン・ニューヨーク・上海など6都市での指導を経て、2015年より半田市にて開校。指導歴40年・数学・理科専門。