テストが返ってくる日の朝、
「今日返ってくるな……」と、こちらまで身構えてしまう。そんな経験はありませんか。
点数を見た瞬間、つい
「なんでこんな簡単な問題を間違えたの」
と口にしてしまい、子どもの表情がすっと曇る。
その後、子どもはどんどん答案を見せなくなり、
「間違い直しをやらせても、ただ正解を書き写すだけ」
になっていく——。
これは、特定の家庭だけに起きている特別な問題ではありません。
40年にわたり国内外で中学生の答案と向き合ってきた中で、
ほぼすべての家庭が一度は通る道です。
そして、ここにはきちんとした"抜け道"があります。
間違い直しが身につかないのは、
「やり方」が悪いからではありません。
「誤答をどう見るか」と
「返却直後にどう反応するか」、
この2点だけが原因です。
同じ間違いを防ぐための重要な見落としポイント
多くの家庭が
「間違い直しノートを作る」
「3色ペンで色分けする」
といった"書き方"の改善に取り組みます。
もちろんそれ自体は悪くありません。
しかし、同じ単元で何度も同じような失点をする子どもの答案を見ていくと、
ほぼ必ず共通する特徴があります。
「うっかりミス」として処理されている間違いの多くが、
実は"うっかり"ではない
のです。
コンピュータサイエンスの世界には、
古くから「バグ(bug)」という考え方があります。
プログラムが思うように動かないとき、
それは「たまたま調子が悪かった」のではなく、
「どこかに間違った命令が書かれている」
ために起きます。
教育心理学の世界でも、まさに同じ発想で生徒の誤答を分析した研究があります。
Brown & Burton(1978)が提唱した
「procedural bug(手続き上のバグ)」
という理論です。
この研究では、生徒の誤答を
「不注意なミスの集合」として扱うのではなく、
「間違った規則を一貫して適用した結果」
として体系的に説明しようとしました。
たとえば引き算で、139−43を「116」と答えてしまう子がいます。
これは単なるうっかりではなく、
「各桁で、位置に関係なく小さい数を大きい数から引く」
という誤った規則(研究ではこれを"smaller from larger"バグと呼びます)を、
本人が気づかないまま一貫して使い続けていることが原因です。
つまり、
同じ間違いが2〜3問にわたって再現されているなら、
それは注意力の問題ではなく
「勘違いしたまま覚えてしまったルール」
の問題
だということです。
ここを見分けずに
「次は気をつけよう」
で終わらせると、
同じ単元で何度も同じ失点を繰り返すことになります。
テスト後の声かけが子どもの粘り強さに与える影響
もう一つ、見落とされがちな要因があります。
それは、
テスト返却直後の
「親の最初の一言」
が、次のテストへの子どもの姿勢そのものを変えてしまう
という事実です。
スタンフォード大学のMueller & Dweck(1998)は、
小学5年生を対象に、成功した課題の後に「頭がいいね」と能力を褒めるグループと、
「よく頑張ったね」と努力を褒めるグループに分け、
その後にあえて難しい課題で失敗させる実験を行いました[2]。
結果は、はっきりと数字に出ています。
- 失敗後の粘り強さ(1〜6点で評価):能力を褒められたグループは3.25点、努力を褒められたグループは4.53点
- 1回目の課題から3回目の課題にかけての解答数の変化:能力を褒められたグループは平均−0.92問(成績が下がった)、努力を褒められたグループは平均+1.21問(成績が上がった)
- 自分の成績を実際より良く偽って報告した割合:能力を褒められたグループは38%、努力を褒められたグループは13%
同じ「褒める」という行為でも、
「結果・能力」に向けるか
「取り組み方・プロセス」に向けるかで、
失敗後の粘り強さに約2問分、成績を偽る割合に3倍近い差が出たのです。
この実験は米国の小学5年生を対象にしたものですが、
日本でも似た傾向が確認されています。
神戸大学の西村和雄特命教授らが2,052人を対象に行った調査では、
子ども時代に「頑張ったね」と努力を認められた人ほど自己決定度が高く、
逆に「褒美をもらった」経験が最も自己決定度の低い結果と関連していました
(この調査は成人への回想法によるもので、因果関係を断定するものではありませんが、傾向としては一致しています)。
つまり、間違い直しが定着しない理由の半分は、
ノートの書き方ではなく、
テストが返ってきた瞬間に、親が
「結果」ではなく「取り組み方」に
目を向けられているかどうか
にあるのです。
実践編:テスト返却後の5分間でできるリフレクション
では、家庭で具体的に何をすればいいのか。3つのステップに分けてご紹介します。
ステップ1:誤答を3種類に分ける
間違えた問題を、親子で一緒に次の3種類に分類します。
- うっかりミス:計算の書き間違い、問題の読み間違いなど、1回だけ出た誤り
- バグ(勘違いしたルール):同じような間違いが2問以上で繰り返されているもの
- 理解不足:そもそも解き方自体が分かっていなかったもの
同じ間違いが複数の問題に出ていれば、
それは「バグ」の可能性が高いサインです。
この分類をするだけで、
「全部まとめて間違い直し」から、
「原因別の対処」に変わります。
ステップ2:答えを先に言わず、一緒に原因を探る
「なんでこうなったと思う?」
と問いかけ、親が先に正解や理由を言わないことが重要です。
これは以前の記事(「親が教えると喧嘩になる本当の理由」)でも触れた通り、
親が解き方を教えすぎると、
子ども自身が原因に気づく機会を奪ってしまいます。
ステップ3:かける言葉を「結果」から「取り組み方」に変える
ここが最も重要なポイントです。たとえば——
- NG:「また同じミスして。ちゃんと見直した?」
- 言い換え:「この問題、どこで引っかかったか一緒に見てみようか」
- NG:「次は100点取れるように頑張りなさい」
- 言い換え:「この間違いのパターンが分かったのは収穫だね」
点数そのものではなく、
「気づけたこと」「取り組み方の工夫」
に言葉を向けるだけで、Mueller & Dweckの実験が示したように、
次の失敗への粘り強さが変わってきます。
まとめ:テスト返却後の5分間が次の成績を左右する
間違い直しが身につかないのは、
ノートの書き方のせいではありません。
誤答を「うっかり」と「バグ」に見分けること、
そして
返却直後の最初の一言を「結果」から「取り組み方」に変えること。
この2つだけで、子どもの間違い直しへの向き合い方は確実に変わっていきます。
次にテストが返ってきたら、まずは点数を見る前に、
こう問いかけてみてください。
「今回、同じ間違いがあったか一緒に見てみようか」
その一言が、バツをマルに変える最初の一歩になります。
大岩裕之(おおいわ ひろゆき) 雙葉進学教室 塾長。数学教育学修士・専修免許状取得。ロンドン・ニューヨーク・上海など6都市での指導を経て、2015年より半田市にて開校。指導歴40年・数学・理科専門。